最先端・次世代研究開発支援プログラム「グローバルマルチスケールモデルによる無機-有機-地圏環境の強連成評価」

地中構造物耐久性評価

放射性廃棄物格納施設の超長期性能評価と設計を目指して

2011年3月11日に東北・東関東でM9.0の大地震が発生し巨大津波が東日本の太平洋岸を襲いました。その巨大津波によって福島第1原子力発電所の冷却機能が機能しなくなると言う事態におちいり、その結果引き起こされた炉心溶融および使用済み核燃料の加熱が原因で放射性物質漏れ事故が発生しました。この事故は文明社会に生きる私たちに原子力発電所の核燃料の管理の難しさを再認識させました。実際、原子力発電所で使用された核燃料は、例え使用済みになったとしても何万年にもわたって核分裂を続け放射線を出し続けるのです。

この放射性廃棄物を安全に処理する方法としては、図1にあるように放射線の遮蔽に優れるセメント・コンクリート構造体で核燃料をすっぽりと密封し、地中に埋めてしまうことが効果的です 。しかしながら、化学的にも安定しているセメント・コンクリート構造体であっても、長い年月を経る間にコンクリート中のカルシウム水和物が少しずつですが周辺環境に存在する水に溶け出すことにより構造劣化が進みます(図2)。これでは、例え放射性廃棄物をセメント・コンクリート構造体に密閉したとしても安心するわけにはいきません。


図1:放射性廃棄物の地下貯蔵


図2:カルシウム水和物が溶け出すことによるコンクリートの劣化

私たちの研究グループでは、この劣化問題を解決するためにグローバルマルチスケール統合解析システムを応用し、超長期間にわたって劣化の少ない新しいセメント・コンクリート構造体の研究を行っています。具体的には、未水和セメントの存在がセメント材料の自己治癒と強化機構をもたらすことを計算機によるシミュレーションによって予測することに成功しました(図3)。さらには、セメント・コンクリート構造体と粘土性鉱物、および周辺地盤・岩盤の長期耐久性・安定性を高い確度で評価することで、放射性廃棄物格納施設の安全性を保証し、コストダウンを図ることを目指しています。

図3:未水和セメントの付加によるセメント材料の自己治癒と強化機構