最先端・次世代研究開発支援プログラム「グローバルマルチスケールモデルによる無機-有機-地圏環境の強連成評価」

研究紹介

この研究の目的は、グローバルマルチスケール統合解析システムを基盤技術として、微視的スケールでの物質や微生物の挙動から巨視的スケールの広域地下空間でのマルチスケールの応答を統合的に計算機上に再現し、地圏環境の保全および改善に貢献することです。
具体的には

  • セメント/コンクリート構造体などの人工インフラ、自然地盤/岩盤、および地下水流から構成される広域地下空間を計算機上で再現します。
  • これまでの個別の研究領域を超えた知の統合・総合化を目指します。そのために、無機物質の平衡・反応則、構造工学、微生物生化学、物質移動則の相互関連モデルを備えたプラットフォームを開発します。
  • 地下空間で繰り広げられる無機・有機の強連成を含む多様な現象を統合システムに組み込んで一括的に取り扱います。
  • 材料試験体の微視的レベルにおける挙動と、生活圏や広域自然環境を直結して評価します。

その上で、グリーンイノベーションにつながる新たな技術(シーズ技術)の創出と環境問題にかかわる社会の要求(ニーズ)に応えることにより、以下の3つの評価・予測を実現します。

  1. 地圏環境リスク・対策評価
    地圏環境リスク・対策評価、つまりセメントなどの固化安定性評価、重金属固定・溶出、バイオレメディエーションによる浄化対策効果の評価と制御をおこないます。
  2. 地中構造物の長期耐久性評価
    地中・地上インフラの性能予測、つまり放射性廃棄物格納施設の性能評価、設計手法、地下ならびに陸上構造物の劣化予測、環境作用の定量化(地下水流れ、周辺地盤との化学的相互作用、エアロゾル海塩粒子の大気輸送と浸透)、長期クリープ変形予測をおこないます。
  3. 貯留技術評価とリスク評価
    二酸化炭素の地中貯留、つまり二酸化炭素の地中での挙動、その残留・溶解、外部漏洩、炭酸塩生成予測をおこないます。また、関連するリスク管理手法の開発をおこないます。

グローバルマルチスケール統合解析システムの中核となるのは、無機複合材料と構造を対象としてナノメートルからメートルのスケールで展開される事象を記述する「マルチスケール統合解析システム」です。
マルチスケール統合解析システムでは、

  • セメント材料の硬化・形成過程の追跡
  • 温度・乾燥による応力/損傷評価
  • 任意の外力・環境作用下での構造応答・損傷
  • 万年オーダーの事象を含む材料・構造の劣化予測

をナノメートルからメートルのスケールで行います(図1)。


図1:セメント硬化体・コンクリート・鉄筋コンクリート構造のマルチタイムスケール・マルチスケール階層

このマルチスケール統合解析システムに、以下のモデルを新たに開発し、組み込みます。

  • 微生物生化学モデル、有機物分解モデル
  • 鉱物学・地球化学平衡・反応モデル、多種イオン相平衡・移動モデル
  • 多孔体内部における熱エネルギー・物質輸送の一般化モデル
  • 境界面における熱エネルギー・物質輸送の一般化モデル

これらのモデルの開発は基本的には独立におこなわれるのですが、最終システムの統合性・首尾一貫性を保証するために、常に各モデル間の連成すりあわせに注意を払います。
さらに、

  • 広域地下水流域モデル、地下水組成データベース
  • マルチスケール環境・気象モデル・データベース

を統合することにより、ナノメートルからキロメートルのスケールの現象(図1)を統一的に扱う事のできるグローバルマルチスケール統合解析システムを完成させます。