最先端・次世代研究開発支援プログラム「グローバルマルチスケールモデルによる無機-有機-地圏環境の強連成評価」

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土木学会賞(出版文化賞、吉田賞)
受賞のお知らせ

2011年5月27日

石田哲也准教授が土木学会出版文化賞を、また石田哲也准教授とYao Luan研究員の論文が土木学会吉田賞(研究部門)を受賞し、土木学会の総会にて表彰されました。

出版文化賞を受賞した著者3名(写真左から岸教授、前川教授、石田准教授)

吉田賞を受賞した著者4名のうち3名(写真左から石田准教授、佐川博士、Luan博士)。

授賞理由は、以下の通りです。

出版文化賞:Multi-Scale Modeling of Structural Concrete (2008), K. Maekawa, T. Ishida and T. Kishi, Taylor and Francis.

本書は,コンクリートを構成するセメントの水和反応からセメント硬化体組織,水分の移動,中性化現象,溶出,塩化物イオンの移動等の材料的な様々な現象と,コンクリートの力学挙動や劣化過程などの時間依存性のある現象をモデル化し,その適用を英語でまとめたものである.
具体的には,ナノメートルレベルの材料特性からメートルレベルの構造応答,すなわち,コンクリートを代表とするセメント系材料を著者らが開発の熱力学連成解析システム(DuCOM)を用いて,水和反応,空隙構造形成,水分の移動/保持といった時間依存性挙動をコンピュータ上でシミュレートする手法を確立した.また,DuCOMから得られる微視的な熱力学的状態量を3次元構造解析システム(COM3)と連成させ,ミクロな材料特性とマクロな構造応答を統合解析するシステムを確立し,各種劣化を考慮したコンクリート構造物の性能評価手法を構築した.
今日,Multi-scaleに関する研究は多い.しかし,多くが材料工学,構造工学の域を越えきれていない.本書は著者らのコンクリートに対する高度な研究と独自の観点からまとめられ,材料科学と構造工学を統合する新しい設計概念とその手法を提示したものである.
本書は国内だけでなく国際的にも価値が高い研究であり,英語による海外からの出版により,我が国の土木工学・土木技術のレベルの高さを世界に発信していることは高く評価される.
よって,ここに土木学会出版文化賞を贈呈する.

 

吉田賞(論文部門):佐川孝広,石田哲也,Yao Luan,名和豊春:高炉セメントの水和組成分析と空隙構造特性,土木学会論文集E,Vol.66, No.3, 311-324, 2010.9

コンクリートの構造性能や耐久性を精緻に照査するためには,セメントの水和反応や微細構造の形成を適切にモデル化する必要があります.しかし,高炉スラグ微粉末の水和反応メカニズムは十分に明らかにされておらず,これまでは室内試験に基づいた半経験式を準用するなどしていましたが,実環境下での挙動を予測できない場合もなりました.
本研究では,X線回折リートベルト法という新しい分析手法を高炉セメント硬化体に対し適用し,微細空隙構造の測定を行いました.その結果,高炉セメントの水和反応と空隙構造の形成との関係は,ポルトランドセメント単体の系とは大きく相違することを明らかにし,長期材齢においてC-S-Hゲルの保有するゲル空隙量が著しく増大することを新たに見出しました.その結果に基づき,高炉セメントのC-S-Hゲルの保有空隙率をスラグの水和の進行とともに増加させる新たなモデルを導入して,空隙構造の微細化や長期強度の増進に関する現象を初めて定量的に再現することに成功しました.
本研究での分析手法は,高炉セメントの水和解析に関する斬新なアプローチであり,精度と信頼性の高い定量データを提示しました.さらに本研究で提案された高炉セメントの空隙構造の形成と強度発現モデルは,微視的構造を忠実に再現しており,高い有用性と実用性を有し,今後の発展性が大いに期待されます.よって,本論文は土木学会吉田賞論文部門に値すると認められました.