非線形解析技術
-ナノからマクロへの連携-

前川宏一・石田哲也・土屋智史

 
 
 
 
 
 
 


1.     はじめに

 1979年に外部記憶装置(5インチフロッピーディスク)が搭載されたPC(パソコン)が登場し、これを卒業研究で使わせていただいた(前川)。2次元有限要素解析で10要素を扱うことが、8ビットCPUの限界(主記憶容量64KB)であった。材料非線形解析をPC上で実行し、15ステップまで解を得るのに2日を要した。ハードディスクが無い時期であったので、フロッピーディスク上に中間管理ファイルを置かざるを得ず、数時間で加熱して書き込みエラーを起こす。樋口芳朗教授(当時)のご助言を得て、2台の扇風機でPCを背面から冷やすと、結構頑張ってくれたのだが、早晩、異音を発しPCがきしみ出す。「計算停止。コンクリートは実験室に有り」とご下命があり、やむなく停止させるも暴走してしまい、困った覚えがある。このPCは当時で90万円、研究室の年間研究費の半分以上を占めていた。今日、1/5の価格のPCで当時の計算を再現すると、スタートボタンを押した瞬間に計算が終了し、悔しいかな、PCは平然としている。

 過去20年、非線形解析技術は計算機能力の向上、即ち桁外れの「体力」アップに支えられて結果を出して来た。一方、非線形求解法に関するアルゴリズムは大きく変わっていない。「技」に相当する部分は、主としてひび割れの扱いを含む、材料非線形性の数力学的表現に努力が向けられてきた。サイバー空間に製造した仮想建設材料の挙動を、如何にデジタル表現するかが、非線形解析技術の一つの柱である。仮想空間に製造されたバーチャルコンクリートを記述するには、実世界の材料・部材挙動を総合的に理解・認識して一般化する事(構成則)と、適切に計算機が制御できる形にブレークダウンする技術の2者が必要である。これらを統合して計算結果を出すのがハードである計算機である。

 非線形解析技術といえば、外力に対する構造応答や破壊を予測することと同義に近い。今日では、構成材料のマクロ、ミクロ、さらにナノスケールでの品質や物性を物理化学的側面から数理表現し、マクロレベルの構造部材挙動まで繋げることのできる環境が揃っている。本稿では、非線形構造応答解析をベースとし、連携の触手を拡げつつあるコンクリート構造の非線形解析技術の近況を紹介する。本文の多くは、著者らが実際に手を下し経験して知り得る内容のみに偏る点を、ご容赦頂きたい。


 
 

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