種別(Category) 修士論文  
Master thesis
タイトル(Title) コンクリートのクリープ・収縮に与える微細空隙中の液体特性及び分布の影響
Infuluence of Liquid Characteristic and its Distribution in Micro-Pores on Time-Dependent Mechanical Behavior of Concrete
著者(Author) 浅本晋吾(日本)
ASAMOTO Shingo(Japan)
主査(Supervisor) 石田哲也講師
Lecturer. ISHIDA Tetsuya
キーワード(Keyword)  
 
掲載誌(Events Venue) 東京大学修士論文
Master thesis of the Univ. of Tokyo
発表年・月(Published Year, Month) 2003.3
論文入手先(Name of Publication) 東京大学図書館
Library of the Univ. of Tokyo
要旨(Abstract) コンクリートの収縮・クリープに関する研究は歴史が深く,何十年もの長期にわたって研究が続けられているにもかかわらず,影響を及ぼす要因が多岐にわたり複雑に関連するため,未だこれらの現象を統一的に扱う理論は存在しない.既存の多くの予測モデルは限られた条件下や実験室レベルの挙動を予測するに留まっており,初期から長期に渡ってコンクリート構造物性能に大きな影響を与える収縮・クリープの予測精度の向上が求められている.よって,本研究では,乾燥収縮・クリープ発生の主原因といわれる様々な機構の影響を実験によって定量的に評価することで,発生機構に基づいた一般性を有する理論の構築を目的とした. 乾燥収縮については,毛細管張力,ゲル粒子の固体表面エネルギーの増減が収縮に与える影響,さらには,セメント硬化体の結晶構造の変化が収縮に与える影響について検討・検証を行った.毛細管張力,表面エネルギーについては,水以外の液体を浸漬させた場合も発生する現象であるため,充分水和が進行したセメントペースト供試体を一旦絶乾し,メタノール・エタノール・潤滑油・水に浸漬させ,収縮挙動がどのように変化するか検討した.その結果,絶乾後による収縮は水に浸漬させたときのみ回復し,液体浸漬後真空乾燥させると,水に浸漬したときのみ収縮ひずみが発生した.そこで,絶乾後水に浸漬したときの収縮の回復,乾燥による再収縮といった機構は,微細なゲル水,層間水,結晶水の吸・脱着にあると考察した.DuCOMによる解析的アプローチは他の液体で回復しない空隙量の実験結果と矛盾のないものとなり,仮説の妥当性が示唆されるものとなった.また,X線回折により結晶水の脱・吸着機構の検証を試みたが,残念ながら本実験ではその検証には至らなかった.さらに,真空での乾燥収縮実験結果からもゲル水,層間水,結晶水が収縮に影響していると考察され,絶乾・真空といった過酷な乾燥環境下ではゲル水,層間水,結晶水といったナノスケールの水がセメント硬化体の収縮に大きく影響を与えることが分かった.また,高中湿度域の乾燥収縮における毛細管張力の影響量について検証を行ったが,乾燥収縮ひずみのすべてを説明できるものではなく,定量的評価を行うためには他の要因も考える必要があるということが実験結果から分かった.その一つに層間水・結晶水の消失が考えられ,絶乾・真空など過酷な乾燥条件下のみならず,常温における高中湿度域での乾燥収縮にもある程度影響を及ぼしている可能性が示唆された.以上の実験結果から,乾燥収縮において,微細なゲル空隙,層間空隙,結晶内に存在するナノスケールの水が大きく影響を及ぼすことが分かり,それらの消失・回復速度の検討を行うことが乾燥収縮を予測する上で非常に重要であることが分かった. クリープについては,低圧縮強度比(40%以下)におけるクリープ発生メカニズムの主原因とされる浸出理論の影響を検証した.浸出は液体の粘性に大きく影響を受けるため,セメント硬化体を絶乾させ,内部にエタノール,潤滑油,水を浸漬させた後,封緘状態でクリープ試験を行った.クリープは,内部にある液体が水のときのみ大きく生じた.他の液体を浸漬させたときは,載荷後数時間でわずかながらクリープした後,その後は載荷を続けても全くクリープは発生しなかった.その理由に,水以外の液体は,絶乾後液体に浸しても微細なゲル空隙,層間空隙,結晶といった微細な部分には浸漬しないことを挙げ,それらの微細空隙内にある水の挙動がクリープに大きく影響していると考察した.すなわち,毛細管・比較的大きなゲル空隙内の水の圧出は初期のクリープにわずかに影響するだけで,微細なゲル空隙内の水,層間水などの圧出がクリープに大きく影響を与え,長期的にクリープを発生させているのではないかという仮説を立てた.しかしながら,本研究ではこの仮説の妥当性検証まで至らなったため,今後の検討課題である. また,高中湿度域・低圧縮強度比(0〜40%)での乾燥クリープは,毛細管張力と内部水の浸出の組み合わせで発生すると考えられているため,その影響量の検討を行った.これらの機構は除荷したとき水に浸漬すればすべて可逆な変形になるため,乾燥環境下で持続載荷を行った供試体を除荷し水中に浸漬させたものと,水中で持続載荷し除荷した結果とが一致するかについて検証を行った.しかしながら,湿度80%,60%といった高中湿度域,低圧縮強度比(約15%)で乾燥収縮・クリープ試験を行い,除荷後水に浸漬させても,収縮・クリープは元に回復しないという結果になった.この理由に,層間水・結晶水の乾燥による消失,持続荷重による圧出を挙げた.層間水・結晶水の回復は非常に時間がかかることが予想され,さらに計測を続け回復と非回復量の検討を行う必要があったが,時間の制約上本研究ではそこまで至らなかった.よって,層間水・結晶水の高中湿度乾燥下における消失,圧出量の定量的把握,消失・回復速度を検討し,本実験結果と照らし合わせることが今後の課題として挙げられる. 以上のように,本研究によって,微細なゲル空隙内の水,層間水,結晶水といったナノスケールの水の挙動が収縮,クリープに大きな影響を与えるという可能性が示唆させるものになった.すなわち,収縮・クリープの発生メカニズムは非常に強い近似性が見られ,ナノスケールの空隙,結晶に存在する水分が巨視的な非線形性をもたらすということが分かった.よって,任意の環境下においてナノスケールの水の脱着・吸着挙動を把握し,それが収縮,クリープに与える影響を検証することが今後の課題として挙げられる.さらには,微細なゲル水,層間水,結晶水の脱着・吸着速度の把握が,収縮,クリープを時系列で評価するにあたり肝要であることが本研究から示唆され,今後の重要な検討命題といえる.