4       まとめ

 神宮(40年前)の名投手・岡村 甫先生は「体力は技術である」と言う。ある水準を超えた体力があって初めて可能となるプレー・技術がある。体力がなければその「技」は使えない。技術で劣ることになるとのこと。F1ドライバー中島氏は、引退の理由に体力の限界を挙げた。高性能F1マシンを制御するインテリジェンス(技)に自信はあるが、すさまじい慣性力に耐える首の筋力と、気を失うことなくマシンを制御し続ける持久力が、F1マシンのモンスター化(体力)で限界にきた、と静かに語った。圧倒的な計算機能を、技術者全員が保有する時代である。この環境を前提とした「技」の習得と非線形解析技術の開発が今日の課題である。この20年は、技の開発を進めることに、主たる努力が払われて来た。不断の開発努力は言を待たないが、技の習得と有効利用ができるエンジニアを増やす時期にきた、と感じている。習得目標をおきつつ、技術の階段を一歩一歩昇るべきであろう。

 本年から、著者らが所属する社会基盤工学専攻の学生教育で、非線形解析技術を実際に使い、その結果を適切に活用するという視点で、若手教官を中心とした新しい講義を起こす予定である(同時に幾つかの講義を廃止)。専攻内外で開発された非線形解析システム(動的構造応答、熱応力、流体、流体振動、寿命予測、河川流出、河海変形解析など)を集めて、工学上の諸問題に解決策を見つけていこう、使えるものは何でも使おう、とするものである。そして、解析対象となった事象を学生実験で再現し、仮想と現実の両者を見て、感覚(違和感も含めて)を涵養してもらう。バーチャルの危うさと限界も、計算をした後にリアリティー(実験)を自らの手で認知することで、伝えることができよう。これが解析技術を進展させる原動力でもある。迷いや不安は多いが、試みてみたい。当然、非線形解析技術自体も、鍛えられて向上するであろう。あわせて土木工学における技術の連携結合が図られることを望んでいる。

 

        参考文献

1) 石田:微細空隙を有する固体の変形・損傷と物質・エネルギーの生成・移動に関する連成解析システム、東京大学学位論文、1999.3
2) Maekawa, K., Chaube, R.P., and Kishi, T.:Modelling of concrete performance, E&FN SPON, 1999
3) 石田、前川:物質・エネルギーの生成・移動と変形・応力場に関する連成解析システム、土木学会論文集、No.627/V-44、pp.13-26、1999.8.
4) 岸、前川:ポルトランドセメントの複合水和発熱モデル、土木学会論文集、No.526/V-29、pp.97-109、1995
5) 石田、前川:物質移動則と化学平衡論に基づく空隙水のpH評価モデル、土木学会論文集、No.648/V-47、pp.203-215、2000.5
6) 前川ほか:鉄筋コンクリートの非線形解析の現況と耐震性能照査法の構築に向けた今後の取り組み,第2回鋼構造物の非線形数値解析と耐震設計への応用に関する論文集,pp.1-16,1998.11.
7) 福浦ほか:非直交する独立4方向ひび割れ群を有する平面RC要素の空間平均化構成モデル,土木学会論文集,No.634/V-45、 pp.177-196、 1999.11.
8) 土屋ほか:ねじりと曲げ/せん断力を交番載荷したRC柱部材の応答解析,コンクリート工学年次論文集,Vol.22、 No.3、 pp.103-108、 2000.6.
9) Hauke, B. et al:Three-dimensional modelling of reinforced concrete with multi-directional cracking, Proc. of JSCE, No.634/V-45, pp.349-368, 1999.11.

 
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