2002/01/31提出締め切り


持続可能な社会を考える
〜 ローマ人の物語を読んで 〜



社会基盤工学科システム計画コース 3年 三橋 幸作



1.持続可能な社会を構築するための要素
 発展する国家を形成するための重要な点は、以下のような点にあると思われる
1) 他のモノを快く受け入れる体制。
2) 充実したハード/ソフトのインフラ
3) 国が一丸となる
4) 非常時の決定権の集中。(組織にはある程度の身軽さが必要)

2.ローマの場合
 
1)他のモノを快く受け入れる体制
  ローマは、建国以来、外を取り込む体制であり、エトルリア人やギリシャ人、また諸民族に拒まず、市民権を与えた。また、受け入れた後の平等さも、新参者が活躍する大きな理由の一つになった。それが、結果として、組織に新しい風を入れることになり、国として発展し続ける原因になった。発展によって国家としての魅力も上がり、外国からすすんでくる人が増える。それでますます発展する。
  このよい循環に、ローマが大発展した因がある。
  また、戦争で打ち負かし、属州国やそれ以下のローマに準じた国にたいして、寛容であった。属州国からは、直接税としての徴兵は、緊急時以外は要請しないし、政治体制に関しては、一切口を挟まず、自治を認めていたのである。属州国が攻められれば、自分たちが攻められたときと同じように、抗戦し、打ち負かす。
こうした、異文化、異民族、ときには国境を越えて、パトローネスとクリエンテスという信義に基づいた関係を築きあげていったことによって、団結力のある国家を形成できたのである。

2) 充実したハード/ソフトのインフラ
( ローマは、インフラ整備を「人間が人間らしい生活を送るためには必要な大事業」とし、採算を度外視してでもやるべきこととして行った。つまり、国家が、国民の生活を守るために行う事業なのである。これは、現代の日本においても忘れられてはいけない哲学であると思う。)
 I ) ハード
 「高速道路のネットワーク」が、ローマの強さであった。その充実した高速道路網は、各都市とローマの感覚上の距離が短くなり、軍事の上でも、物流の上でも大きな貢献をした。
 軍事の上では、外敵が攻めてきたときには、いち早く駆けつけ、進入を防ぐ。一つの道がふさがれたとしてもネットワーク化されているので、高速通行手段を奪われることはない。
  一方、すべての高速道路がローマに続いているので、情報、物品、人材ともに、国内外からローマに速く入ってくるし、逆に発信もできる。また、ローマ意外の都市間おいても、それは同じことが言える。
  また、「水道」の整備も、採算を無視して行われた大事業で、国民の清潔な生活を実現させた。公衆浴場も整備され、衛生性を保つことによって、病の予防にも役立った。

U)ソフト
  教育の質の充実が、人材を生み出す大きなきっかけとなる。一級の教育を受けた人物が、社会に供給され続ければ、国家も高い状態まで成長し続ける、あるいは、高い状態を持続し続けると思う。
  ローマの教育は紀元前3世紀までは、親が教師として家庭教育をしていたが、それ以降家庭教師をつけたり、私塾で勉強させるようになった。ギリシャ語、数学、地理、歴史、論理学などを学んでいた。
「国定教科書やカリキュラムなどは存在せず、教材の選択も教育法も、当の教師に一任されてい」たため、教育がうまくいかないところは、人気がなくなり、よい教育をするところは、人気が出る、という競争原理が働いた。そのため教育の質も向上し、充実をはかることができた。この教育の充実が、優れたリーダーを生み出す主要因となったかどうかはわからないが、その影響は少なからずあったに違いない。
 

3) 国が一丸となる
  国全体が目標に対してほぼ全員が一丸となって戦えることができれば国家は発展し続けられると思う。
ローマにおいて、外敵から攻められている間は、国全体で団結して、元老院などのシステムもうまく機能していたが、ハンニバルという大きな敵に打ち勝ってからは、特に大きな外敵は存在しなくなった。しかし、外敵が存在しなくなったパクス・ロマーナにおいて、今度は、国内のシステムの破綻が起こり、国内の政情が不安定になり、クーデターなどが起きた。
  外敵の存在は、内部の団結力を促進させたが、内なる敵においては、内部の混乱を招くだけであった。
  ここまで言うと、外敵の設定が大事、だと言えそうだが、外敵の存在は、内部団結の必要条件に過ぎず、十分条件ではない。団結には、愛国心も必要である。
  ローマ市民はもちろんのこと、属州国などの準ローマ市民の人たちでさえ、ローマの国家を大好きだったと思われる。他国で失敗した人でも、リベンジの機会を与えたり、「人間らしい生活」を送るための基盤整備も充実しており、軍事力もある国家を、みなが愛していたのである。だから、外敵に対しては、「ローマを奪われてなるものか」という気持ちに皆がなったのではないだろうか。ここで重要なのは、強制的な愛国心ではなく、自発的な愛国心である。


4)非常時の決定権の集中
  非常時の決定が早いか遅いかで、取り返しのつかないことになる可能性があることは、個人のレベルで考えてみても経験があるのではないか。それが国家となると、その規模も大きいはずである。非常時には、適切な判断をし、早く決定を下すべきである。
ローマは、建国から、第7代王のタルクィニウスまでは、王制であった。王制は一部例外はあったが、世襲制ではなく、有能な人物とみなが認めた人物がなっていった。そして、その王には、発展途中のローマを国家として安定したものにするため、試行錯誤を続けた。独裁制であるので、フットワークが軽く、よいと思われた施策をすぐに実行することができた。
  ローマが共和制になったあとも、非常時には、6ヶ月間の絶対的決定権を持つことができる独裁官ができた。そのため、戦争などで危機になっても、決定が早いため、うまく危機を脱することができた。
  しかし、外敵を失ったあと、独裁官がでてこず、元老院が絶対的存在として台頭すると、危機に対する対策の決定が、遅々として進まなかったり、対策を行っても、足を引っ張り合う、等のフットワークの低下が起こり、カエサルが現れるまで、混迷をなかなか抜け出せなかった。

3.日本の場合
1)他のモノを快く受け入れる体制
 日本は、よそものを排除したがる文化にあると思われる。新しいものは、調和を乱すもの、という認識が強い文化なのではないだろうか。
 また、内には甘く、外にはきびしい、という面も持っていると思う。適切ではないかもしれないが、例を出したい。
 例えば、太平洋戦争のとき。沖縄の本土決戦が行われたが、日本軍は、沖縄を見捨てた、といわれている。十分な援軍を送らなかったのである。それは、首脳陣が、自分自身の身を守るために、軍事力のが減ることを嫌ったからである。これは、首脳陣の保身という理由もあるが、「沖縄が日本である」、という意識が当時は薄かったからではないだろうか。つまり、沖縄は外であったのである。属州国でさえ、外敵に攻められれば、必死に第一線までかけつけ市民を守るローマとは大違いである。

2) 充実したハード/ソフトのインフラ
 日本は、ハードのインフラは、完璧とまでは行かないけれども、かなり充実した。だから、採算を度外視して作らなければならない事業は、そんなに多くないだろう。
 ソフトなインフラの教育が貧弱だと思われる。教育の画一化がその一例である。例えば、アメリカにおいては、教育制度は、「ここまでは教えなければならない」というのは決まっているが、「ここまでしか教えてはいけない」という制度はない。しかし日本ではあるのである。発展途上中においては、国民を一定の教育水準に保つことが、発展の大きな役割を果たしたかもしれない。しかし、今ではそうした国の管理教育は、かえって、人材の成長を抑えてしまうものになってしまった。優秀な人材を社会に輩出し続けなければ、国家の衰退は、必然なものになってしまう。ボトムに合わせて教育制度を決めていたのでは、エリート教育の充実した欧米、中国、韓国に、競争で敗れてしまうだろう。
  したがって、日本においてもエリート教育の充実が望まれる。

3) 国が一丸となる
 ローマの場合において、国が一丸となるためには、外敵の存在と、自発的愛国心が必要である、と述べた。これを日本の場合で考えてみよう。
 日本の現状は、企業間競争がメインで、国としての外敵の存在は、見られない。また、日本を好きな日本人の割合が少ないと思われる。愛国心のある日本人が多くないということだ。これでは、国として一丸となることは期待できない。
 国民が、自分たちの国を自発的に好きになるように仕向ける必要があると思われる。
4)非常時の決定権の集中
 日本の現状では、決定権が一人にゆだねられる状況でなない。多数決で決めなければならない。非常時の被害を少なく食い止めるためには、アメリカの大統領のように、決定権を首相が単独で持つことが重要ではないだろうか。

4.ローマと日本の根本的違い<特に教育や団結について> 
母性都市と父性都市
 (「都市のデザイン <きわだつ>から<おさまる>へ」を参考に書いた。)という丸茂弘幸氏の話がこの二つの違いを理解するうえで、大変興味深いことを書いている。いかに、一部改めて、書いてみる。

  歴史学者の宮崎市定氏によると、青銅器時代、というのは、だいたい都市国家の時代に対応しており、西アジアでは長く、(3000B.C−800B.C.)2200年ほど続き、中国では比較的短く、(1300B.C.(?)―400 B.C.)900年ほど続き、日本においてはほとんどなかった。
宮崎によれば、戦いに負けると全市民が奴隷にされる運命にあった都市国家の市民は、愛国心が極めて強く、強固な団結と協力によって文化を発達させた。都市国家の特徴の一つは物理的に堅固な城壁で都市が囲まれていることであり、社会的に強固に団結した市民の存在することである。
  また、ユング派の精神分析医の河合隼雄によれば、欧米の社会が父性優位の社会で、日本の社会は母性優位の社会であるという。「母性の原理は<包含する>機能によって示される。それはすべてのものをよきにつけ悪しきにつけ包み込んでしまい、どこではすべての者が絶対的な平等性を持つ。(中略)母性原理はその肯定的な面においては、生み育てる者であり、否定的には、呑み込み、しがみつきして、死に至らしめる面を持っている」(河合隼雄『母性社会日本の病理』)。 これに対し、「父性原理は、このようにして強いものを作り上げていく建設的な面と、また逆に切断の力が強すぎて破壊に至る面と両方を備えている。」
  
 以上により、特に、日本の教育が、横並びの教育をしているのに対し、ローマや現在の欧米では、エリート教育が発達したことの大きな理由がわかると思う。
 また、ローマでは愛国心を持っている人が多かったのに対し、日本では、あまり日本が好きじゃない人が多いことの理由がわかると思う。
  
教育にしろ、団結の問題にしろ、こうした、日本の負の性質をよく理解した上で、その性質に配慮した対策を考えなければならないのかもしれない。


付録 人類に影響度が大きかった人物Best10
1位 釈迦
2位 キリスト
3位 マホメット
4位 蔡倫
5位 エジソン
6位 ニュートン
7位 ワット 
8位 モンテスキュー
9位 アインシュタイン
10位 スピルバーグ(スターウォーズ)

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